▼KJケミカルズ株式会社 代表取締役社長 丸山 学士さん インタビュー
KJ Chemicals Corporation CEO Takashi Maruyama
日用品からEV、半導体まで。高機能製品で産業を支える化学品メーカー
~研究開発は困難の連続。それでも今日より、明日。粘り強く、一歩ずつ、前進していこう~
KJケミカルズの主要な製品は、インキ、粘接着剤、塗料
ー私たちの身近にある垂れ幕、液晶パネル、壁の塗料、コンタクトレンズの原料にも使われる
- KJケミカルズの製品と、その社会的な役割について教えてください。
私たちの製品には、名前に「アクリル」という言葉が付いています。セーターなどにアクリルの繊維が使われていますよね。あのアクリルが繊維になる前の原料を、化学薬品として製造・販売しています。
少し専門的な言葉で言うと、アクリルの「誘導体※」を製造している会社であると言えます。いろいろな構造がまとまったものが誘導体です。私たちは、機能性モノマーを製造する技術を持って事業を展開しています。製品の60%は海外に提供しています。
※誘導体(ゆうどうたい、英: derivative)…有機化学の用語。ある有機化合物を母体として考えたとき、官能基の導入、酸化、還元、原子の置き換えなど、母体の構造や性質を大幅に変えない程度の改変がなされた化合物のこと。
- この機能性モノマーは、どんなところで使われるのですか。
主要なところでは、インキ、粘接着剤、塗料の三つです。
インキは、デパートや空港など巨大な建物の大きい垂れ幕や、ファストフード店のおしゃれな壁紙など、大型のものを印刷するときに使う特殊なインキに使われています。インキに機能性モノマーを入れることで、インキがシートにしっかりついて、剥がれたり割れたりしにくくなるのです。
また、3Dプリンターでも、立体を成形するときのインキとして使われています。
粘接着剤は、ガムテープという粘着テープがありますよね。ああいう接着力の強いものを作るための材料としても使われています。
あとは、液晶パネルにも使われていますね。液晶パネルは、何枚もの素材を貼り合わせて作られるのですが、この接着剤としても使われています。
塗料は、最近では、溶剤を使用しない水系塗料が当たり前のものになりつつあります。たとえば、スーパーの食品を扱う場所の壁に塗られています。食品売り場では、溶剤のにおいは嫌がられますよね。海外では、化学製品に対する規制もあり、幼稚園や小学校にも水系塗料がよく使われています。でも、溶剤を使わないと、塗料は水に溶けてしまいます。そのため、溶剤を使わない塗料への添加剤として、私たちの原料が使われているのです。
- 私たちの目に見えるのはできあがった製品ですが、その中には御社の製品が入っているのですね。
そうですね。あとは、本当に身近な製品だと、コンタクトレンズですね。1日とか3日で使い捨てるシリコンの柔らかいコンタクトレンズがありますよね。この種類のコンタクトレンズには、私たちの製品が世界中で使われています。コンタクトレンズに、酸素や水を通すための機能を付与する材料として、使われているのです。
ほかには、ヘアコンディショナーやボディソープにも入っていますし、製紙用の薬品や材料にも使われています。
それから、石油を掘削するときに使う増粘剤。これは、実は私たちの会社の原点です。
石油を掘削するとき、何千メートルもの井戸を掘るためにドリルをずっと回していきます。このドリルの先端を冷却したり、掘ったときに出るがれきを上に押し上げて出したりするときに使われる増粘剤の製造から、私たちの会社は始まりました。今でも石油掘削の際、アフリカ、アメリカなどさまざまなところで、私たちの増粘剤をご活用いただいています。
最近では、基礎原料や中間原料だけではなく、塗料や接着剤の完成品を直接提案できるような商品開発も行っています。また、もっと新しいサスティナブルな製造技術を使って、より広範囲な商材展開をすることも、現在進めています。
2050年のカーボンニュートラルに向けての取り組みが進行中
ー「EV(電気自動車)」「半導体」「環境」のキーワードとKJケミカルズ
- 留学生の中でメーカーに興味あるという方は多いですが、ここ最近、大きく三つのキーワードが出てきます。一つ目が「EV(電気自動車)」、二つ目が「半導体」、そして三つ目が「環境」です。御社はこういったキーワードに関わる部分はありますか。今後の展開も含めて教えていただけますでしょうか。
はい、三つとも関わっています。
まず「EV(電気自動車)」ですが、EVには非常に大きな電流を瞬間的に流す、太い電線ケーブルが使われます。電池やモーターをつなぐものですが、瞬間的に大電流が流れるので、絶縁性と耐熱性が求められます。そのためには、電線にコーティング剤を塗るのですが、そのコーティング剤を溶解して塗りやすいようにする必要があります。当社ではそのような素材の開発を進め、販売をスタートしたところです。国内だけでなく、海外の大手企業にも販売が進み始めました。
「半導体」の場合は、回路を焼き付ける部分の素材に、一部当社の製品が入り始めています。これは日本が結構強い分野です。次世代の商材となりますが、私たちも提供を始めています。
「環境」に関しては、EcoVadis(エコバディス)というフランスのサステナビリティ・サプライチェーンの評価会社から、2年連続ゴールド評価をいただきました。当社のサステナブルな企業活動、人権擁護なども全部含めて評価されています。世界にある化学メーカーで、何十万社ある中の上位5%に入っています。
熊本の工場では多くの電力を使いますが、その電力のうち9割は再生可能エネルギー由来です。太陽光と地熱発電で賄っています。
- 東京では地熱発電はあまり馴染みがない印象ですが、そういったクリーンなエネルギーが使われているんですね。
地熱発電に関しては、日本は技術的には世界で一番なんですよ。火山もたくさんあるし、どこを掘っても温泉が出る国ですから。
このように、環境に対しては当社もさまざまな取り組みを進めています。2030年には、2013年度比でCO2の発生量を半分に削減していく予定です。海外に販売を進める以上、そういうことをきちんとしていかないと、なかなか世界からは認められません。
当社では、原料も製造技術も両方カーボンニュートラルにしていく取り組みを、今まさに進めています。それができないと2050年に脱炭素宣言できないだろうと思っています。苦労すると思いますが、一生懸命チャレンジしています。
- 留学生は、製品を海外へも販売している企業にとくに興味を持っています。御社の海外展開の現状と今後の展望について教えていただけますか。
海外の販売先は、おもにアメリカ、ヨーロッパ(EU)、そして中国・台湾・韓国のアジア地域です。比率は、これら3つのエリアでほぼ均等です。今、販売拡大を進めようとしているのがインド、東南アジア、南米ですね。将来はアフリカもあるかもしれません。
大学生の研究室での研究と、企業での研究の大きな違い
ー向き不向きを考える前に、何か一つ突き抜けるまでやったら、自分の足場ができてくる
- 研究開発のお仕事についてお聞きします。学生さんは大学院で研究しているので、入社後も同じようなことが続くのか、それとも違うのか、知りたがっています。学生時代の研究開発と、企業で働くときの研究開発とでは、何が違うのでしょうか。御社のケースだといかがでしょうか。共通点や決定的に違う点はありますか。
当社の研究開発は、自分が開発したものを自分で商用化まで持っていく、という経験をします。大学で扱うスケールとは、まったく違うことをやらなければならない、というのは大きな違いですね。
- 商用化というのはスケールアップ、大量生産まで見ていく、ということですか。
そうです。フラスコで自分が開発したものを、大量生産して販売するまで見据えていく必要があります。
- 研究室でのフラスコ実験との大きな違いは何でしょうか。どんな視点が必要になってくるのでしょうか。
たとえば、「この材料を40℃で反応させる」場合、研究室では簡単にその環境が作りだせます。しかし、「100トンの材料を大きな窯に入れて40℃で反応させる」となったら、さまざまな設計と計算が必要になってきます。反応が進むと熱が出たり、あるいは熱を吸収したり、といったことが起こります。大きな規模で熱をあげようとしたら、いろいろ条件を考えなければなりません。
つまり、実験室でできることをもっと分解して、細かな工程で組み上げていく作業が必要になります。たとえばある薬品を作る場合、分子構造を見て、効能と特性をシミュレーションしながら分子設計を行います。さらに、それを何千トンも製造するためには、製造プロセスの設計も必要なのです。そこは化学工学の分野ですね。そういう知識とか経験は必要になってきます。大学の研究室では、そこまで大きなことはやりませんから。
- そこは決定的な違いですね。
そうですね。そこはどの産業もみんな同じだと思います。
- 就職活動をする学生さんの中には、自分が研究開発の仕事に向いているんだろうか、と悩む人もいます。どういう人が向いているとか、そういったことはありますか。
向き不向きというより、何か一つ、突き抜けるぐらい経験をしてから、先のことを考えても遅くはないと思います。ある程度、足場ができるまでやってみてから考える。入口で止まっていると、ずっと向き不向きを考えることになると思いませんか。
- たぶん、早く結果が知りたいんだと思います。「これが自分の天職だ!」みたいな。タイプを知りたがる学生さんは多いと感じます。
どんな人が研究開発に向いているかは、面接でもよく質問されますね。研究開発の仕事って、ほぼうまくいかないんですよ(笑)。失敗の連続なんです。理系の学生さんであれば、大学で学んだことを振り返ったとき、ほんの少しでも、自分の手で物ができていくことが楽しく思える、そういう経験がある人は向いているんじゃないかと思います。
- どこで自分の心が動くかは大事ですよね。
そうですよね。たとえば、クラフト市に行くと、いわゆる職人さんがたくさんいますよね。本当にものを作るのが好きな人の世界ですよね。就職活動の前に、ああいったところを一回見てみると、自分を再発見する機会になるかもしれません。
- 研究室にこもっている学生さんも多いから、外の世界をどんどん見たほうがいいですね。
実際に自分の目で見て、ものに触れたとき、心に響くか響かないのかを感じておくといいかもしれませんね。
化学薬品も、建築物も、自動車産業も、すべて職人技ですからね。心が動かされるのかどうか。もしかしたら、やっていくうちに心が動いていくかもしれません。
新しい商材の開発は、うまくいかなくて当たり前という厳しい世界
ーそれでも今日より、明日。粘り強く、一歩ずつ、とにかく前進していく
- 丸山社長ご自身のことも伺えたらと思います。
ここには新卒入社で入りました。前身の株式会社興人に入社して、化成品事業部の研究職として働いていました。研究職だけではなくて、製品の企画から営業までやりました。当時、本当に小さな事業部隊でしたので、いろんな部署を経験しました。
2000年までの十数年は、熊本県の八代工場で開発や製造技術をやって、2000年以降は東京本社で20年以上働いています。2012年からKJケミカルズの事業部長を務め、社長になったのはここ5~6年です。
- 経営者として、社長さんのお仕事の面白さ、大変さは何ですか。
いやー、大変なことしかないですよ(笑)
- いやいや、これだけ大きな船を船頭として引っ張っていく醍醐味はあるんじゃないですか。
少し歴史的なお話をしますね。KJケミカルズはもともと、株式会社興人の化成品事業部でした。私が事業部長になった当時は、中国の競合企業の台頭や超円高による輸出難などで厳しい時期が続き、興人から独立して分社化されることになったのです。そのような状況の中で、もう一度みんなが前を向いて働けるような事業体にすることが、私にとっても本当に大きな課題でした。
だから、出世して社長になって、「俺もこれで社長だ!」みたいなことは今もまったくないんです。本当にみんなで一生懸命がんばって、走り続けて、会社を大きくしてきたという感じですから。社長として責務を負うということはもちろん十分に理解していますが、私自身はプレイヤーの一人という認識でずっといますね。
- 学生さんたちから見ると、社長さんはちょっと怖い人かなとか、近寄りがたい、というイメージがあると思います。学生さんたちに社長さんのことをもっと知っていただくために、ご自身が大事にしている価値観などを教えてください。
「今日よりも明日。粘り強く、一歩ずつ、とにかく前に進む」ということが重要だと思っています。新しい商材の開発には、ものすごく時間がかかるし、お金もかかる。だいたいうまくいかないのが当たり前だと思わなければいけない、厳しい世界であることも事実だと思います。
- そうですね。日々を大事にしながら、一つずつですね。話は変わりますが、お休みの日は何をされているんですか。
本当に無趣味ですけれど、ジョギングはしています。事業部長になる前からずっと走っていて、熊本に一年間単身赴任したとき、「みんなで走ろうよ」と、ジョギングの同好会を作りました。その当時、第一回の熊本城マラソン(毎年2月頃開催)があって、そのときにみんなで出場しました。今も、毎年社員が参加しています。
- ジョギングは健康増進のためですか。
そんなに健康は意識していないんですが、散歩代わりに走っています。走ったあとだと、お腹が減って、ごはんもお酒も美味しいですよね(笑)。
♦♢♦KJケミカルズの丸山社長から留学生のみなさんへのメッセージ♦♢♦
- 最後に留学生にメッセージをお願いします。
私はずっと日本で生まれ育って今に至るので、留学生の皆さんのことは本当にすごいと思っています。若くして海を渡ってくるということが、まず、すごいなと思います。きっと、いろんな夢を持って、日本に留学されたのだと思います。それだけの強い思いや夢を、これからも一生大事にしてくださいね。
その夢の実現のために、私たちのような会社、化学や事業などに興味をお持ちでしたら、楽しんでいただけることは間違いないと思います。KJケミカルズという「機会」を使ってもらえるんだったら、喜んで提供するよ、と考えています。
その代わりプロフェッショナルとしての自覚は持って働いてほしい、という気持ちはあります。
- 素敵な言葉をありがとうございます。私たちも毎日、何人もの留学生と話していて、いつも彼らから学ぶことが多く、彼らからエネルギーをもらっています。そのように言ってくださり、すごく嬉しいです。
熱量や思いの強さみたいなものが、日本人には希薄になっているんじゃないかと思うことはありますね。将来のことを考えると、日本にも問題は多々あるので、留学生の方々の思いや行動力に学ぶことは多いんじゃないかと思います。
ですから、彼らの思いをちゃんと受け止められるようにして、もっと日本に来てもらえるようにしなければいけないなと思いますね。
日時:2024年3月7日
場所:KJケミカルズ本社
インタビュアー:ASIA Link 小野
記事編集・構成:ASIA Link 小川
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